呉屋日記

勝連繁雄先生の一弟子・平良が、好きなことを好きなようにつづる日記

はずむウタムチ

摩文仁の平和祈念堂での先生の独唱の機会(6月22日)に向けて。
本番直前の先週までの1か月間ほど、稽古のたびに、先生の歌う本調子仲風節を聴いていた私たち。

「語りたや 語りたや 月の山の端に かかるまでも」
先生が独唱すると、だいたいいつも、歌声も三線も、じっくりというかゆったりというか、味わい深く語るようだというか。
とにかく毎回、しっとり系の歌になっていた。



でも、先週水曜日に聴いた先生の歌だけは、いつもの調子と少し違っていた。
歌が始まる前の少し長めのウタムチが、はずんでいた、というか。
ウタムチを聴くだけで、先生の楽しい気持ちが伝わってくるようで
あれ、こんなこともあるんだ、と面白く感じた。

先生、何か楽しいことでもあったのかなぁ。
たしかにあの日は海外から最近帰ってきたという弟子仲間がひとり、1年以上ぶりに稽古に参加していて、みんなの話が盛り上がったりしていたけど。





ところでこの本調子仲風節は、間違いなく先生の好きな古典曲ベスト3に入ると思う。
もしかしたら好きな曲ナンバー1かもしれない、というくらいに。
先生作の詩やその他の作品にはよくこの曲が出てくるし、私たちにもよくこの曲の話をする。
大好きなんだろうと思う。「語りたい」という気持ちを込めて伝えることのできるこの曲の、言葉と音の合わさり具合が。




歌える嬉しさそのもののような気持ちがこもっているのかな、と感じることもある。
あからさまに見せるのではない、心の内にある嬉しさが、自然とにじみ出るようだというか。
そしてその、嬉しさが表れる様子はいつも静かで。
だから先生のこの歌は、だいたいいつも、しっとりと抑え気味の調子で。
先生自身もこの歌を、そういうふうに表現するのが好きなよう。
それだから、先週のあの歌にはちょっと驚いたけど。



「人生に余裕をもった人間が、心の色艶をもって、いくつかの山並をまろやかになぞっていくような曲想がある」というのは、この本調子仲風節に関する先生の談。(『改訂 歌三線の世界』より)。
たしかに。この談そのもののような普段の歌こそ一番先生らしいと思うし、そんな歌を、私もいつも期待している。
でも日によって、いろいろなバリエーションの歌が登場。
それもまた、まあまあいい感じ。
はずんだ語りを楽しく伝える。
またひとつ、新しい歌を聴かせてもらいました。