先生と、面と向かって話したこと。
一番印象に残っている場面は?と、聞かれても分からない。
先生はいつ、私を何と呼んでいただろう。
(「君」?「お前」?「ゆかり」?・・・・全部だな。)
先生を思い出す時、行きたくなる場所がある。
本島南部の、とある海沿い。
夜中、しーんと静まり返った中で、真っ暗な、海をのぞむ道路を車で走る。
片道一車線の、ところどころのカーブを抜けていくうちに、比較的ゆるやかな、少し幅の広い道に出る。
一点の、岬を見上げられる場所に辿り着く。
通過しながら思い浮かべる。
真っ暗な夜空。その岬の端のほうか。
遠くの、ぽつり、小さな灯を眺める私。
横に、先生。
先生は、三線を弾き、歌い、ときどき休み。
目線をまっすぐ前にそのまま。
あたたかく、いつものように、ふっと、つぶやく。
「明るいねぇ」
実際に、先生と一緒にその場所に行ったことは一度もない。
私はいつも一人車に乗り、その場所を見上げられるところから、ちらりとそこを通りすぎるだけ。
けれどもそこを通るたびに、先生とふたり並んだ風景が浮かぶ。
同じことを、先生が今この瞬間に、思っているかのような感覚になる。
幾度となく聞いた覚えの声がする。
「弾いてみるか、由佳梨」。
私がこれから生きていくということは、そういうことだと思う。
大切な仲間、人々に囲まれて、日々は続く。
刻々と、いつの間に過ぎる年月を重ねる中で力になるのは、
ふと立ち止まり、思い浮かべ、記憶に刻む日々。
書くことで、強固になる思い。
いつまで続くか分からない道のり。
先生の声が聞こえる。
語る。応える。
私はどれだけ、善い行いをしたというのかな。
先生と出会えたこの喜びは、どうして手に入ったんだろう。
生きる。感じる。
悲しめることも幸せ。
包み、守られる。
誰にも消せない、私がいる限り。
いつもいる。見える。
伝える。伝わる。
他も、ひとつに、つながっている。
表現を、やめたくない。