呉屋日記

勝連繁雄先生の一弟子・平良が、好きなことを好きなようにつづる日記

昨日、面白かったこと

「じゃあ昨日の舞台のとき、たとえば本を販売している間にでも面白いことはなかったの?」という声にお応えして(?)。
ありましたよ!面白いこと。
なので今から、その出来事について書きます。



昨日(先生の新作組踊の舞台のとき)、兄弟弟子のS子さんと2人で会場入り口にて先生の本を販売していた時のことです。
年齢60代〜70歳前後とみられる細身の女の人が一人、私たちのいる場所に近づいてきて、「勝連先生へ渡したい品物はこちらに預けてもいいんですか?」と聞いてきました。
私は「はい、ここで預かることができますよ」と返事をし、「お名前をお伺いしてもいいですか?」と聞きながらその女の人を見ました。
するとその女の人は「ああ、私の名前は中に書いてあるので大丈夫です」と言って、持っていた少し大きめの手提げの紙袋を私に手渡し、「ではよろしくお願いしますね」と言ってその場から立ち去っていきました。
袋の中身は上からすぐに見えました。どうやら何か大きめのお菓子か何かのようで、そしてそのお菓子の箱とそれに巻かれたリボンとの間に「勝連先生へ」とタテ書きで書かれた細長い封筒が挟まっていました。
封筒に差出人の名前は書かれていないようでした。
S子さんと私は顔を見合わせ、「ま、先生が中を開ければ分かるはずだよね」と言って、その品を袋ごと、先生の本を並べてあった机の下のほうに一旦しまいました。
その後、袋は私が持って帰って一日預かることにしました。



そしてその翌日、今日の午後のことです。
先生のところに稽古に行き、稽古の時間が始まろうとしているときに私は、「ああ、そうそう。昨日、先生に渡してほしいって言って女の人がこれを預けていったよ」と言って、例の品を先生に渡しました。
先生は「そうなの?誰が?」と不思議そうで、私が「名前は言ってなかったよ。中に書いてあるんじゃない?」と答えるのを聞いたあと、箱の外側に挟まれていた封筒を手に取りゆっくりとその口をやぶいて開けました。
すると中には、便箋が一枚入っていました。
その便箋を先生が広げたのを横からチラ見すると、組踊の再演おめでとうございますというような内容と、最後のほうに苗字だけで差出人の名前が書かれていました。
その他のことはほとんど書かれていないようでした。
私は、「誰なの?」と聞いてみました。
すると先生は、「いや、ただの昔の同級生だよ」と言って、その手紙を自分の部屋にしまうためか、稽古をする部屋の横にある階段を登っていってしまいました。


その後少しして、いつも通りに三線の稽古が始まりました。
けれども、なんだか先生の様子が変です。
三線を弾きながら、なんだかずっとうわの空といった状態で、三線に合わせて歌いながらもどこか遠くを見ていたり、短い休憩のときになぜか一人でほほ笑んだりしていました。
そして私はそんな先生を気にしないよう努めながら、練習に集中しようとしました。
でも、私のその努力は長くは続きませんでした。
先生があまりに変な様子なので、それが気になって歌を歌い続けられなくなってしまったのです。
なのでその後、少しだけ長い休憩時間になったとき私は「先生、あのプレゼントの女の人、本当は誰なの?」と、もう一度聞いてみました。


するとびっくり!その女の人は、なんと先生の元カノ、とのことでした。



先生が高校生だった頃に付き合っていた彼女だそうです。
「40年くらい会ってないんだよ。彼女、同窓会にも来なかったし」と言い、そのあと先生は私に、「どんな様子の人だった?上品な感じ?」といろいろ質問してきました。
「あー、顔はあんまり覚えていないよ。こんなことならしっかり覚えておけばよかった」と私が言うと、先生は面白そうに笑いました。
そしてそれから、「彼女、昨日の組踊も観たのかな?新聞で知ったのかな?」とニコニコしながら、その人からもらった今度はお菓子のほうの包みを開けていました。



その後先生は、もらったその大きな箱にいっぱいの一口サイズのグミのようなお菓子を、うれしいからあさって水曜日と土曜日の稽古のときに弟子たちの前にも出すと言いました。
そしてまた今日の稽古が終わる時間に近づいた頃には「『鳩間節』に『汀間当』・・・。これ、どっちも彼女が大好きだった曲なんだよ」とつぶやいて、これから約1か月の間、弟子たちとの練習のときにはその2曲を毎回必ず練習することに決めたと言いました。
そういうふうに、多くを話す先生の言葉はイキイキとしていて、とても印象的でした。
そうです!先生は今日、懐かしい思い出の中のあの人と、瞳の奥でロマンチックな再会を果たしたのです!



・・・・・信じるか信じないかは、あなた次第です!(笑)